食に関するコラム
このコーナーでは、暮らしのちょっとしたヒントや、気になるテーマをいろいろな角度から取り上げ、定期的におすすめしていきたいと思っています。皆様からの耳寄りな情報や、気になることも随時お待ちしています。
からすみ 今回のおすすめはからすみ
ざくっと手割りで、お好きなお酒とどうぞ
独特のカラッとした芳香と、ねっとりした食感、微妙な塩加減を残した魅惑のからすみ。日本酒党には、よだれが出そうなくらいのフェロモンを醸し出していますよね。だけど、認知度は低く、まるで一部の熱狂的ファンを持つ格闘技のように、通ウケする食品です。うすーくスライスして、たまには大根の細切りと一緒に日本酒でいただくというのが、一般的なからすみの食べ方で、からすみも日本酒もちびりちびり、というのがいいですね。日頃は高嶺の花であるからすみではありますが、ボーナスが出て太っ腹になったついでに買おうと考えている方、手に入れたら、まずざっくり手割りで食べてみて下さい。包丁を入れたときとはまた違った食感に驚きを覚えることでしょう。実は、ブランデーにもワインにも相性ばっちりなのです。だって、ヨーロッパじゃぁ、料理に使うんですってよ。
 
からすみって何?
日本三大珍味(詳しくはあとで触れます)と呼ばれるくらいですから、“からすみ”は、お酒を飲む方々には有名な食べ物であることには間違いありません。だけど、たらこや明太子ほどメジャーじゃないし、魚の卵であることはわかるけど、、、と思っていらっしゃる方も多いのでは?そこで、からすみがどのくらいメジャーなものかと思い、メールマガジンをお読みいただいている方々にアンケートを行い、回答を寄せていただきました。

その結果によると、回答者の約2割の方が「知らない」でした。「知っている」と回答した方でも、約4割の方はどの魚の卵なのか知らない、という答えでした。まさか、「セコムの食」のスタッフの中に知らない人がいるとは、口に出しては言えませんが、、、。その他にも“サメの卵”“フグの卵”などの答えもいただきました。サメの卵は日本どころか「世界」三大珍味のひとつだし、フグの卵巣は、毒があるものもあるので気をつけないと。

 
からすみの作り方
からすみは、ボラの卵巣を加工したもので、原材料は原卵と塩。まず、原卵をきれいに洗って塩漬けします。2週間ほど経ったら、水洗いして塩を抜き、それをさらに2、3週間かけて乾燥させて出来上がり。からすみは、長崎のものが有名で、食べ比べてみると味や食感の違いが思ったより明確にありました。からすみの老舗である「小野原本店」の小野原卓嗣さんによると、出来映えに大きく影響するのは、塩分と水分の抜き加減だそうです。一般的には、形が良く、透明感のある濃い飴色(べっ甲色)のものがよいとされています。試食したなかでも小野原本店のからすみは、お酒に良く合いそうと、左党のスタッフからは大好評でした。また、同じ魚卵であるたらこはスケトウダラの卵で、明太子はそれを調味液に漬けて味付けをしたものです。
 
ボラのこと
成長するにつれて名前が変わる魚のことを出世魚といいますが、ボラもその仲間です。秋口に海中で産卵され孵化した稚魚は、冬になると海から川へと棲み家を移して春、夏を過ごします。秋には海へ戻り、その後幾度となく海と川を行き来するのだそうです。文献によって多少の誤差はありますが、体長2〜3cmのものをハク、3〜18cmくらいまでをオボコ、20〜30cmくらいをイナ、それ以上をボラ、それより大きい老魚(一般的には40cmくらい)をトドといいます。
 
それって、わたしのこと?
今じゃ、あまり聞かなくなりましたが「オボコ娘=汚れを知らない純情な娘」、という言葉は、まだ海に出る前の川のなかで遊ぶ無垢な姿からきているもので、「イナセ」という言葉は、成長時期のイナの背ビレのようにイキのよい状態を例えたものです。また、「トドのつまり」という表現は、これ以上大きくならない=これから先はない、という意味からきているものです。知らなかったなぁ〜。ボラは、海底の泥の中にある藻や貝の微生物などを好みます。そのため、身に臭みがあり食用になることは少ないです。身を食べる場合は、洗いにすることが多いようです。
 
三大○○
ヒトはまことに「3」という数字でものごとを賞することを好むものでございます。日本三景や日本三大祭りなどなど。そこで質問、江戸時代から伝わる日本三大珍味のうち、ひとつはからすみ。では、あと2つをあげてください。時間は10秒間。
はい、答えられましたか?答えは、長崎のからすみ、越前のウニ、三河のコノワタ(ナマコの内臓の塩漬け)。これらは、江戸時代に幕府への貢物だったのだそうです。ちなみに世界三大珍味はキャビア(チョウザメの卵)、トリュフ(きのこ)、フォアグラ(ガチョウの肝臓)です。
それでは、最後の問題です。世界三大スープは?
からすみ、海を渡る
からすみの歴史は諸説あり、地中海で作られていたものがシルクロードを通って中国に渡ったという説と、もともと中国で考えられたという説などがあります。日本へは16世紀ころに中国(唐)から伝わったとされています。当初は輸入に頼っていたようで、日本では、18世紀以降に長崎で製造され始めました。からすみという名前の由来は、その形が唐の墨に似ていることから名づけられました。
イタリア的からすみのこと
日本では高級すぎて、なかなか手が出せないからすみですが、イタリアでは比較的手軽に利用されている食材なのだそうです。正確には「ボッタルガ(BOTTARGA)」といって、ボラのほかマグロやマルーカという地中海で獲れる魚の魚卵をからすみと同じ製法で加工したもので、パスタにまぶしたりソースを作ったりして利用されています。日本でも、イタリア食材を取り扱っているところでは、日本のからすみよりは安価で販売されていて、料理に使うには価格もお手頃です。
挑戦してみました
人に紹介するには、まず自分でやってみないといけないと思い、からすみを使ったパスタを作ってみました。用意したのはスパゲッティとオリーブオイル、ニンニク、鷹の爪、パウダー状になったからすみ(ボッタルガ)。材料を見てピンときた方も多いと思いますが、要はペペロンチーニにからすみを振りかけたもの。でもこれって、シチリア地方では有名な作り方なんですよ。そして感想ですが、予想をはるかに上回るほど美味しかったことに驚きました。こんなわたしでもあんなに美味しく作れたということは、めちゃくちゃ合うということですよ。からすみのパウダーがオリーブオイルとすっと溶けあって、なんともいえない美味しさが広がります。あー、今日も明日もからすみのパウダーを使い切るまで作りつづけるだろうな、きっと。みなさんも是非、チャレンジしてみてください。

「独り言」
からすみ 先日、からすみの取材で長崎に伺ったのですが、作り方はシンプルながら、相当手間ヒマがかかることがわかりました。時間ごとにひとつずつ天地を逆にしたり、まんべんなく太陽光を当てるようまめに移動させたり、雨が降り出したら、さっと軒下にいれなきゃいけないし、まさに天気とにらめっこ。おまけに長崎は、晴れているかと思ったら急に雨になったり、天候がすごく不安定なんです。よい商品にはそれ相当の努力が伴うものなのですね。余談ですが、豊臣秀吉はからすみの大ファンだったらしいです。からすみには口臭を抑える効果もあるそうで、その意味もあってか当時は、今で言うガムの代わりのような役割を担っていたとか。このとき取材をしたからすみは、「セコムの食」夏号でご紹介します。数あるからすみ店のなかでも、噛んだときのねっとり感やつぶつぶ感は頭ひとつ飛び出していると思いますよ。これをソースにするなんてもったいないことはできません。ぜひ、手割してじっくり味わいながら食べてください。

おまけ:世界三大スープ、わかりましたか?正解は、トムヤムクン(タイ)、ふかひれスープ(中国)、ブイヤベース(フランス)です。場合によっては、ボルシチ(ロシア)が上げられることもあります。

  猪口 ゆみ

情報提供:小野原本店
参考文献:食材図展(小学館)
     キッチン栄養学(高橋書店)

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