食に関するコラム
このコーナーでは、暮らしのちょっとしたヒントや、気になるテーマをいろいろな角度から取り上げ、定期的におすすめしていきたいと思っています。皆様からの耳寄りな情報や、気になることも随時お待ちしています。
鰻 今回のおすすめは
夏の暑さにそそられて
夏は気分も明るく行動もアクティブになる季節ですが、それと同時に何をするにもエネルギーをたくさん使う季節です。だって暑いですもんねぇ。暑いです、ホント。こんな暑いのに、・・・と、そういうときになぜか食べたくなるのが鰻。鰻屋の前を通る時に漂う、あの強烈な“食べて食べてビーム”は、空腹の胃袋にはあまりにも刺激的。蒲焼、白焼き、うな重、うな丼、ひつまぶしなら最後はお茶漬けでさらさらと、風情も一緒にいただきましょう。今回は、夏にぴったりの鰻がテーマです。
 
謎、なのです
鰻の出生地は、日本の遥か遠く太平洋のマリアナ諸島で、世界に生息している鰻は15〜18種類といわれています。そのなかでも食用として好まれているのは“ジャポニカ種”と“アンギラ種”です。わたしたちに馴染みの深いジャポニカ種の産卵は4〜6月末頃、フィリピン沖で産卵し黒潮に乗って3〜5ヶ月かけて日本近海に辿りついているのではないかといわれています。ただ、鰻の生態は未だに解明されていないことが多く、謎の多い生き物なのですって。
 
鰻の養殖事情
現在の鰻市場の約99%が養殖鰻だといわれています。だけど、卵から孵化させて稚魚を育てる養殖方法は未だに実用化されていないので、養殖といえども元をたどれば海の中で生まれたものなのです。鰻は変態する生き物で孵化直後のものはレプトセファルスと呼ばれ、笹の葉っぱのような形をしています。その後5〜6cmほどに成長したしらすの鰻は冬から春にかけて、鰻が遡る河口付近の海岸で捕獲したものです。ただ、このしらす鰻は養殖業者が高値で買い取ることが続いたため、国内では乱獲が広がり、天然鰻の量にもかなり影響を与えているのだと、四万十川の鰻の取材に行った際に生産者の方が仰ってました。確かに美味しいものは食べたいけれど、何事も自然の流れを壊さないようにしなくては。逆にここ数年、台湾や中国では豊漁が続き、稚魚の価格が下がってきているそうです。
 
お開きの流儀
鰻といえば蒲焼!という方は多いと思いますが、蒲焼は関東と関西とで流儀が違います。まず、捌き方。関東が背開きなのに対して関西は腹開き。背開きにすると身の薄い腹側が内側になるため蒸すときに形を整え易いという良さがあるのに対して腹開きは背の厚い部分が内側になるので、串打ちの際の作業が効率的なのです。関東は武家社会でしたから腹開きは切腹を意味するため嫌われ、関西は商人の町ですから、名より実を取ってより効率が上がる方を取り入れたといわれています。
 
古典を少々
『石麻呂に我もの申す夏痩せによしといふものそ鰻捕り喫(め)せ』(万葉集) これを詠ったのは大友家持で、夏バテには鰻が良いといっている歌なのですが、日本人と鰻の間柄をひも解いてみると、わたしたちの祖先は紀元前からすでに鰻を食べていたのではないかと、いろんな出土品から推測されているのだそうです。奈良時代には鰻を食べることによる薬効を期待されていたようですが、室町時代には料理の食材として扱われるようになったとのこと。江戸時代には現在わたしたちが食べているような蒲焼の元祖が食べられ始めたようです。
 
土用の丑の日 平賀源内
鰻といえば土用の丑の日。土用の丑の日と聞けば何故かしら鰻を食べたくなるのは、もうほとんど条件反射的な感があります。この土用を土曜と勘違いして毎週土曜日に鰻を食べないとだめだと思いこんでいた小学生はわたしだけではないと思うのですが、だけど、何故ゆえ土用の丑の日が鰻の大量放出の日になってしまったのでしょうか?この話には諸説ありますが、起源は江戸時代に始まったと言われています。方位術によると五行「木火土金水」のなかでも“土”は他の四行に勝ち、且つ「丑」の方位にあたります。そこで精がつく鰻を土用の丑の日に食べて、夏痩せを防ごうと言うことになったと言われています。そして、これを言い出したのは平賀源内なのだそう。また、他の説では、平賀源内がご贔屓にしていた鰻屋が夏にお客が減って源内に相談したところ「今日は土用の丑の日、鰻召しませ」という看板を書きそれが広まったと言われています。有名人御用達の店って、今も昔も何かと得なんですね。
 
ええやないの、Aやないの!
イメージからしてエネルギッシュな鰻。まさにその通り、鰻はわたしたち現代人に足りない栄養素の宝庫なのです。まず、鰻が持つ栄養素のなかで一番多いのはビタミンAの存在。100g当たりのビタミンの含有量は5000IU(IUはビタミンの単位)で、これはチーズの4倍、卵の約6倍、豚肉の160倍にあたる量。ちなみに鰻のキモは身の部分の3倍にもなるんだそうです!うな重をいただくときには、きも吸いも忘れずに飲まなきゃね。ビタミンAは、皮膚や粘膜の潤いを保ったり免疫機能を高める効果があると言われていて、ガンの予防や治療にもその効果を期待されています。また、「目のビタミン」と呼ばれるほど視力を保つ働きや、カロチンの吸収を助ける働きも担っています。
 
Aだけじゃないでぇ
では、ビタミンA以外はというと、もちろん他の栄養だってばっちり。不足すると疲労がなかなか抜けなかったり、記憶力の低下などを引き起こすビタミンB1は、鰻100gで一日に必要な量をほぼ摂れてしまうくらいに豊富で、ほうれん草の10倍、栄養の代謝をスムーズにする働きがあるといわれるビタミンB2だって、100gで一日に必要な量の約半分が補えます。たしかに、薬局で栄養ドリンクのコーナーを覗いてみると、殆どのものにビタミンB群が含まれていますね。この他、鰻にはビタミンB6やB12、D、Eなどもしっかりと含まれています。鰻とビタミンってなんだかイメージに遠いのですが、これだけ含まれているのなら万々歳ですね。
 
育ち盛りにも働き盛りにも
まだあるのか、というほど栄養豊富な鰻ですが、まだまだあるんです。ビタミンだけじゃありません。カルシウムだって牛乳の1.5倍、鉄分や亜鉛などもきちんと含まれているのです。また、脳の活性化を促したり、抗アレルギーの効果が期待されているDHA(ドコサへキサエン酸)やコレステロールや中性脂肪を抑制するとされるEPA(エイコサペンタエン酸)も含まれているとのこと。そして気になるカロリーはというと、100gあたり339kcal。脂がこってり乗ったイメージからすると意外と低カロリーのような気がします。
 
鰻さん、ありがとうの気持ち
以前、京都には水蛇の代表として鰻を奉る「鰻神社」と呼ばれる神社がありました。毎年2回、大放生祭を行い鰻の供養なども行われていて、ご利益としては夫婦円満や子授けなどがあったそうなのです。残念ながら、現在ではもう残っていないそうで、鰻を取り扱う生産者の方や、お店で鰻を食べた時には、心の中で鰻に感謝しましょうね。

「独り言」
鰻 鰻というと、蒲焼で食べるものだと思い込んでいたわたしにとって、ひつまぶしの存在は、かなり衝撃的でした。鰻をまぶしたご飯をお茶漬けでするすると食べるのもなかなか美味しいものですね。もっとも、最初の頃は“ひつまぶし”を間違えて“ひまつぶし”と読んでいたくらいでしたから、あまり偉そうに語ることはできませんが、、、。鰻といえば、セコムの食でも美味しい鰻をご紹介しています。専門店顔負けの鰻の蒲焼をはじめ、四万十川の鰻を使った鰻茶漬けや鰻ちまき、かの吉兆で修行したご主人が作る天然鰻の茶漬けなど、どれをとっても美味しいものばかり。お茶漬けにするのはもちろんのこと、酒の肴にももってこいですよ。
  猪口 ゆみ

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